「そこまで行くと、精神的に時間を長くしたりして」楳図かずお
楳図 映画版の『漂流教室』は、ちょっと外れましたね。テレビ版は、素材は全然違うけれども、わりと狙うところは正しかった。「未来に放り出された僕たちは、どうしよう」と、真剣なまなざしだったんですが、映画版は「未来に探検に行っちゃった」というようなノリだったじゃないですか。
——はいはい。そうですね。
楳図 以前、『わたしは真悟』が舞台になったことがあるんです。そのときは全然お金をかけずに、東京タワーにのぼるシーンなんて、イスをひとつ積んだだけで表現していました。それはそれですごい伝わるものがあって、そんなものだと思うんですよね。
(中略)
——一番お忙しかったのは…
楳図 『おろち』と、『猫目小僧』のときですね。月刊誌3本、週刊誌3本描いていましたので、2日に一本ずつ仕上げてました。僕は絶対に作品はインスピレーションで描くんですけど、あのときは、2回、考えが及ばなくて話を方法論でつくっちゃったことがあって。これはいけないと思いましたね。
——2日に1本!! それは考える時間、無くなりますよね…。
楳図 一日のうちの食べるのに時間をとるか、寝るのに時間をとるかですよ。もう胃も動いていなくて、「今日は、食べるのをよして考えなきゃ」って。もう、そこまで行くと、精神的に時間を長くしたりして。
——ど、どういうことですか?
楳図 『地球最後の日』という作品を当時描いたんですけど、「地球があと数時間でアウトになっちゃうから、残りの数時間をうんと広げて、その中で生きていく」っていう話なんです。あれは、自分が体験したというかね。なんだか時間が間延びした感覚になっていって、1時間が2時間くらいになる。はた目から見ると、すごいスピードで動いてるように見えるかもしれないんだけど、自分の中では、時間をのばしているだけだから、普通なんです。
——せ、仙人じゃないですか! どうやってそんな技を会得たんですか?
楳図 最初、「僕に週刊1本なんて無理だ!」ってレベルだったんですよ。なのに、注文を断っても編集者が聞いてくれないんです。「こないだ注文しにいったときに、にっこり笑っていたからOKなんだと思って、予告に入れちゃいました」って。
——「こっちは、愛想笑いしただけなのに!」っていう。ちなみに先生はどうやってアイデアを 考えますか?
楳図 僕は歩きながらです。だからよく散歩をしますね。歩きながらシビアなことを考えていても、意外と発散しちゃうんで。中央線沿線はずっと歩いてます。僕にとっては歩くことと考えることは同義語なんです。
——家もつくりが回廊になってますね。
楳図 行きどまりが嫌なんです。幅は狭いんだけど、ずっと続いてエンドレスになってますね。
——先ほどの作品が様々なところにあるというのも、思考の回廊という意味でも、この家は先生の頭の中というか。
楳図 その通りですね。僕の脳内です。だから、この家自体が僕の作品ですね。最新作のつもりです。立体に家という形を借りてつくった作品ですね。
——作品といえば、95年に『14歳』の連載終了が終了してから休載中です。
楳図 もう漫画は描く気がありません。
——え? ぜ、絶筆、ですか?
楳図 はい。漫画は同じポーズを続けるのがきついんですよ。僕、肩の痛みがひどくてね。もう嫌というほど机にしがみついたのでいいかなと。次の作品作りとしては、映像を予定しています。映画監督として。頭の中のイメージを映像にしていきますよ。